福祉車両でライドシェアのすすめ

ライドシェアを始めるなら福祉車両でやりませんか、という提案です。まずはじめに、福祉車両というのはいくつかタイプがありますが、ここでは乗客が車いすに乗ったまま車に乗りこめる車両について書きます。それから「介護タクシー」と「福祉タクシー」という2つの呼び名はとくに区別せず、「福祉タクシー」とします。

普通のタクシーと福祉タクシーの現状

ライドシェアの前に、現在のタクシー業界と、その中での福祉タクシーの位置づけについてお話します。まず、福祉タクシーと普通のタクシーでは、事業者として登録するときの分類が違います。一言でいうと「簡単に」、「小さな規模(あるいは個人)で」事業許可が取れるのが福祉タクシー。そのかわり、要介護のお客さんしか乗せてはいけない、事前予約でしか運行できないという二つの大きな制限があります。

これに対して普通のタクシーは、新規事業者としての登録が難しく、個人タクシーとして独立するにしても、法人で何年も経験を積んだ上でないと認められないハードルの高いものです。しかしその分、対象の乗客に制限はありませんし、予約なしで駅での待機や流しでの営業が許されています。使用する車両に決まりもなく、福祉タクシーが使用しているような福祉車両を使って、車いす利用者を乗せることもできます。

福祉タクシーだけに許されていて、普通のタクシーに許されていないような行為はありません。福祉タクシーができること、やってよいことは、基本的に普通のタクシーでもすべてできます。その逆の、福祉タクシーだけに課された制約はいくつもあります。制度としては普通のタクシーという大きな括りの中に、福祉輸送に限定するという形で加わらせてもらっている感じです。

この制度のもとで、私は福祉タクシーの事業者として国交省から次のように言われているように感じます。言葉が悪いですが、「普通のタクシーが面倒くさがるお客さん、乗降に時間がかかるわりに乗車距離が比較的短いお客さん、つまり車いす利用者を福祉タクシーが引き受けてください」「それ専用の福祉車両を使ってやってください」「そのかわり車いす利用者がさまざまな介助を求めれば、そこは自由に値段をつけて勝手にやっていいです」と。実際この制度はうまくいっています。福祉タクシーと普通のタクシーはうまく棲み分けできていますし、福祉タクシーも介助料を上手に設定して、きちっとビジネスを成り立たせています。

福祉限定表示

もう少し福祉タクシーのことを説明します。 業務のほとんどは、午前中に病院に通う高齢者の送迎です。そうすると、昼過ぎからはお客さんがいなくなります。そしたら病院の前とか駅前に待機して、車いすのお客さんが出てきたら乗せればいいんじゃないか、というとそうはいきません。福祉タクシーは事前予約でしか運行できないからです。病院待機もだめです。

要介護の人のみ、そして予約運行、この2つの制限は福祉タクシーの売上に大きく影響します。乗車回数は一日に6-7回、よくても10回乗車までです。1回の乗車が平均3キロとして1000円ちょっと。これでは1日の売上が1万円を超えるのは難しいので、多くの福祉タクシーは介助料をとります。介助が必要でも必要でなくても、とにかくお客さんが車いすに乗っているというだけで、1000円ほどの介助料をとります。それでやっと1日1万円が達成できるというわけです。お客さんがそれ以上の介助を求めれば、それぞれの大変さに応じて介助料を加算するようなしくみを多くの業者がとっています。

このように、稼働率が低いために、どうしても単価を上げなけれならない。それを介助という付加価値で補っているわけです。こんなことを言うと同業者におこられるかもしれません。でも多くのお客さんは自分の車いすを持っていて、迎えに行ったらすでに車いすに乗って待っています。その人からすれば、福祉車両で迎えに来て、リフトなりスロープなりで車に乗せてくれさえすればよくて、それ以外の、自分の体に触れるような介助はいっさい必要ないというわけです。それなのに、福祉タクシーを頼むと介助料を1000円取られるということに抵抗を感じる人が多いのが現実です。車に乗せるまでに身体介助が必要なお客さんでも、付き添いの家族やヘルパーがやってくれる場合も少なくありません。わざわざ、初めて会う運転手のおっさんにベッド脇まで来てもらうより、いつも来てくれるヘルパーさんに介助してほしいと思う人もいます。ごく自然なことと思います。

ライドシェアを福祉車両で

こういうタクシー業界を一気に変えてしまうのがライドシェア、および白タクの解禁だと思います。ついにガラガラポンが来ます。23年10月の現時点ではライドシェアがどういったサービスなのか、どんな決まりももとで運用されるのか、情報が何もありません。ライドシェア=Uberなのか、それともアプリとか関係なしに、自家用車の車体に自分で好き勝手に決めた運賃を掲示して流したり駅前に待機したりしていいものなのか、わかりません。しかし、少なくとも現在の普通のタクシーや福祉タクシーのように国交省が決めたルールのもとで仕事をするものではないでしょう。アプリへの登録が義務付けられるとしても、それはドライバーとお客さんをつなぐマッチングの場であって、どんなお客さんを乗せようと、どんなお客さんを拒否しようと、1日何時間営業しようと、個人の自由という感じではないでしょうか。少なくとも、先程述べた、福祉タクシーに現在課せられた制限、要介護のお客さんと予約運行のみ、というルールはなくなるでしょう。

ライドシェアという自由なフィールドで、福祉車両を走らせたらどうでしょう? 午前中は近所の病院の患者さんを送迎する。午後1時、2時くらいになって病院が少し落ち着いたなと思ったら、街に出て普通のタクシーのように営業すればいいのです。日中8時間営業して、15回ほど乗車があれば2万円近く売り上げることができると思います。介助がない車いすのお客さんから介助料を取らなくても、2万円上げることは可能だと思います。

現在、介助の必要がない車いすユーザーの多くは、普通のタクシーを利用しています。乗車時には車いすを車両に近づけて、後部座席に乗り移る。車いすは折りたたんでトランクに積むという手順です。ライドシェアを普通の車両でやった場合、このようなお客さんを拒否するわけにいかないでしょう。普通の乗用車で営業しているときに、車いすに乗ったお客さんが乗車する、これは正直に言えば、うれしいことではありません。そもそも座席高が高いバンやsuvなどは移乗がたいへんです。移乗時に車体に車いすが当たらないかひやひやしますし、折りたたんだ車いすを車に積むのもなかなか大変です。それが福祉車両だとまったくストレスがありません。簡単に車いすのままリフトやスロープを使って乗せることができます。雨の日なんかはとくにありがたいです。どんな車で営業していても、車いすに乗ったお客さんは目の前に現れる。それを福祉車両は寛大に受け入れます。お客さん自身も乗り降りが楽だし、ドライバーもノーストレス、双方にメリットがあります。

でも福祉車両って、後部座席をとっぱらってあるんじゃないの?普通の乗客を乗せるのに問題ないの?あるいは普通に自家用として自分で使うのに不便なんじゃないかと思うかもしれません。たしかに乗車定員1〜2人分を犠牲にして車いすやストレッチャーのスペースを確保している車両もあります。8ナンバーの車で、現在の福祉タクシーはほとんどがこれです。一方自家用の福祉車両は、多くが後部座席そのままに、車いすが乗り込む場合だけ折りたたんでスペースを確保する車です。シートを戻せば、まったく普通の車です。こちらは5ナンバーあるいは3ナンバーになります。

福祉車両のタクシー

この8ナンバーの福祉車両と、5ナンバーの福祉車両が2台並んでいるのが、上に掲げた写真です。手前が私の福祉タクシー、奥が普通のタクシーです。このように、福祉車両で営業する普通のタクシーも徐々に見られるようになってきました。これらは車いすのお客さんが乗るときだけシートを上げ、それ以外は普通の車として営業するために、5ナンバーの福祉車両を利用しています。普通のタクシーと同じ昼夜営業するため、稼働率がいい。たまたま車いすのお客さんが乗ってきたからと言って介助料を取ることはありません。普通のタクシーと同じ値段です。たしかに、お家の中に入ってまで何かをお手伝いしたり、お客さんに触れたり抱えたりする介助は基本的にしないと思います。でもそれは「しないようにしてる」というだけであって、制度や規定上禁止されているわけではありません。介護、介助というのは医療とは違って、基本的にだれがやってもいい行為です。昔は全部家族がやっていたわけですから。ドライバーの中には「それぐらいのことはやってあげるよ」という人もいると思いますが、たぶん一人がやってしまうと、お客さんは「前回のドライバーさんはここまでしてくれた」と言って、同じことを求めるのでできないのだと思います。

ライドシェアだと、お客さんが求める何か介助やお手伝いがあっても、他のドライバーと足並みを揃えるためにやらない、やれない、ということはないと思います。むしろ、お客さんからの高評価ほしさに、サービス合戦みたいになると、それはそれでちょっと問題かもしれませんが。それでも、繰り返しになりますがお客さんにとって初めて合う人が部屋に入ってきて体を触らせるというのは勇気がいることと思います。なのでちょっとしたことをしてあげたら、どんどんエスカレートしていろんなことを頼まれるようになるというのは起きにくいです。ただ、同じお客さん宅に繰り返し訪れると、徐々に信頼されいろいろなことを頼まれるようになることはあります。そしたら、それは勝手に値段をつけて有料サービスにすればいいだけです。

現在はJPNタクシーも普及しており、いずれは一般のタクシーもすべて車いすのまま乗れるというのが標準になるのかもしれません。バスがそのようになったのですから。どちらかというとバスよりもタクシーのほうが先にそうなるべきだと思います。ですので、ライドシェアをやろうと考えるなら、もうこれからは車いすのまま乗れる車が当たり前なんだというくらいの感覚でもいいと思います。

福祉車両でライドシェアをやることで、車いすユーザーのお客さんから選ばれやすくなります。たまたま車いすのお客さんにあたったとしても、乗せるのに何の苦労もありません。お客さんも乗り降りが楽なので喜びます。そして座席を戻せば普通の車なので、通常の営業に不利になることもありません。車両価格が少し上がりますが、税金の優遇が受けられる場合もあり、コスト面で負担増はあまり考えなくていいと思います。ライドシェアを始めるなら、ぜひ福祉車両でやられることをおすすめします。