障害者へのサービス、有料化を

令和6年4月25日の日経新聞「私見卓見」に「障害者へのサービス、有料化を」と題して私の投稿が掲載されました。このタイトルだけ見て、「けしからん」とお思いの方もいらっしゃると思いますので、少しそこに書ききれなかったことを補足したいと思います。

まずは紙面の内容をそのまま紹介します。

4月の法改正により、障害者への「合理的配慮」が事業者に義務化づけられた。多様な障害を持つ一人ひとりの客に向き合いながら、民間事業者として採算が取れるようなサービスとはどうあるべきだろうか。

タクシーの場合、車椅子の障害者が乗客として目の前に現れたとき、車両の乗り降りが技術的に可能で、運転手に大きな負担がかからなければ、乗車を受け入れなければならない。タクシー会社はまず、車椅子のまま乗れる福祉車両を導入するなどして、このハードルを下げる努力をすべきだろう。

問題となるのは、車椅子の乗客が降車した後、「家の玄関まで上げてほしい」というケースである。タクシー本来の業務から外れるため、この申し出は断ることができそうだ。だが、乗客が家の前でタクシーから降り、どうすることもできないという場面に、運転手は手を差し伸べたくなるだろう。

もし、一人の運転手が親切心で行ったら、次回の乗車時にも別の運転手が同様の行為をしなければならなくなる。結局、その事業所の運転手全員が行うサービスとなり、それにかかるコストは無視できないものになる。

解決策として、本来の業務に付随する一部のサービスを有料にしてはどうか。タクシーの場合、車椅子の乗客を家の玄関まで上げるというサービスを有料で行う。乗客を乗せる、運ぶ、降ろすという基本サービス以外のサービスに追加料金を課すのである。

付加サービスは、障害の有無にかかわらず誰もが利用できるオプションにななる。車椅子を利用しない客にとっては荷物を家の中まで運んでもらうサービスとなる。買い物が困難な障害者のために、商品集めから自宅配送まで請け負うサービスは、健常者にとっても利用価値があるはずだ。

音楽ホールに広い特別席を設けたり、ビュッフェ形式のレストランで特別に給仕をしたり、といった障害者への配慮は健常者への追加サービスにもなりうる。これらは本来、有料でないと採算が取れない。障害者の接客に特別なコストがかからないよう準備するとともに、どうしても避けられない人的コストは有料サービスに誘導することを検討してほしい。

「法改正」というのは「障害者差別解消法」のことです。この法律はすでに2016年に施行され、障害者を差別しないように、そして合理的な範囲で配慮するようにということが行政機関に義務付けられていました。これが民間事業者にまで義務付けが拡大したのが令和6年4月ということです。そこで私は、民間事業者の場合は障害者対応にかかるコストを考えなければならず、行政機関と同じようにはできないと思い、上のような投書をしたのです。

とりわけ、行政機関が運営する公共施設や公共交通は、障害者に対して利用料、入場料、運賃などを割引していることが多いです。一般の料金よりも安くなることに慣れている人たちにとって、「障害者へのサービス、有料化を」とは何ごとか、とお叱りを受けるかもしれません。

しかし私は、障害者が1「いつ来店しても」、2「繰り返し来店しても」、3「大勢来店しても」同じ対応が受けられることが大切だと思います。ヒマな従業員がいるときだけ配慮してもらえるとか、「今日だけ何とかします、次回からは無理です」と言われるとか、「車椅子対応がすばらしい」と評判になったら困る、とか、それではだめだと思うのです。

そのためには事業者が障害者に対応するのに、どうしてもかかってしまうコストは払ってもらうようにする。それによってお店も、障害者を「なんとかやり過ごす」お客さんではなく、「またご利用ください」「お仲間もお誘いください」という普通のお客さんと同じような接し方になると思います。

事業者は「配慮」を有料にすることで、障害者のお客さんを増やしたいという気持ちが生まれ、配慮の提供にかかるコストを下げる方法を考えるでしょう。それがまた障害者が利用しやすいサービスになって、好循環が生まれると思います。事業者と客が対立的に向き合い、その結果無償の「配慮」をしかたなく続けることになれば、お互いにとってよくないと思います。

もう一つは障害者手帳の問題です。事業者が障害者に特別な対応を無料で行う場合、障害者手帳の提示を求めることが多いです。しかしこれは、手帳をもたなくても配慮を必要とする多くの人に不公平感を与えます。手続きをすれば障害者手帳を得られるのにしていない人はたくさんいるし、外国人の場合、障害認定制度が日本とは異なります。日本発行の手帳がないというだけで特別対応が受けられないことに納得がいかない人もいるでしょう。あるいは車いす利用者というだけで特別対応を提供する場合もありますが、これも歩行困難度や障害の重さと必ずしも一致せず、現実的ではないでしょう。

今は高齢者がじっと家にいる時代ではありません。手押し車や車いすを使ってどんどん街に出ます。人生の最後の5年くらいはみんな障害者だと思います。それでも普通に生活し外出できる環境が整ってきたのだと思います。一方でサービス業やお店で働く若い人が減っていて、現場は忙しいですね。とにかく一人のお客さんに1対1で対応するコストはすごく大きいと思います。それでもきちっと評価されて、お金を払ってもらえるとうれしいでしょう。そのためには付加的なサービスを有料化して、きちっとシステム化して、障害者でも高齢者でも、いつでも気持ちよくサービスが受けられるようにしなければならないと思います。